主任の回想録

打倒!魚の日

多くのスーパーマーケットでは「青果の日(野菜大放出)」「肉の日」「魚の日」「惣菜(デリカ)の日」など、曜日や日付のゴロ合わせなどで、セールを開催します。我が店舗の場合、その部門の該当日には該当部門が、生鮮1位の売り上げとなります。

我が畜産部「肉の日」には、多段ケース中段の棚を取っ払って、特売品を「ぶっこみ」ます。しかし、店長が棚板を一枚抜くのがどうもお気に召さないようで、前夜に準備をしていると「棚板を一枚抜くと、いくら売り上げが減る」と、電卓を叩きながら持論を唱えます。

「新潟に杉と男は育たない」と言いますが、本当ですね。
男の愚痴は聞きたくないので、手直しができない開店間際に棚を取っ払う強硬手段に出ます。自分としては「売り上げ目標に達すればイイでしょ」的なノリですが、店長としては「そういう問題じゃない」そうです。目標を達成できなかったらできないで、嫌味を言うくせに。

そう。売り上げ目標を達成するための最大の敵は、駐車場数千台のピッカピカの大型ショッピングセンターやディスカウント店ではなく、我が店舗の店長と鮮魚部です。

口に出しては言いませんが、「魚の日」は、店長と鮮魚部を潰す心づもりで挑みます。

話が入れ替わっていません?
「肉の日」に、店長と鮮魚部を潰すのでは?

いいえ。
「魚の日」に、鮮魚部の売り上げを抜きたいのです。

だって、鮮魚部出身の店長の店舗の「魚の日」の売り上げが、畜産部に抜かれるなんて考えただけでワクワクします。店長会議で何を言われるのでしょう。本部や他店で噂されますよね。「魚の日に肉屋に抜かれた」って。あの時の快感が、達成感が、店長の悔しそうな顔が、いまだに忘れられないのです。

とはいえ、「魚の日」に鮮魚部の売上を抜くのは、そう簡単ではありません。特売品の内容とタイアップ、曜日タイミングや気候、外的要因によって左右されるので、鮮魚主任が大きな発注ミスをやらかさない限りは、畜産主任が一人あがいたところで、たかが知れています。

しかしこの時期、私には強い味方がいます。

「お局主任!アレの動きはどうですか?」
「今のところ、昨対に沿う流れね。もう少し乗せたいわ」

「今年も例の関連販売をしませんか!」
「私は構わないけど、アナタたち大変じゃないの?」

「OKであれば準備しますよ!」
「いいわよ。じゃあよろしく。これ、持っていって…」

やってきました「魚の日」。
鮮魚部では朝から大量入荷です。
結局のところ、夕飯は「魚か肉か」の二者択一に近いところもあるので、勝負に出ます。

パートさんに作ってもらった、ハンバーガー風トーストのサンプルと、大量に発注したチルドのあらびきジャンボハンバーグやフランクフルト。お局主任から多めに発注してもらった食パンとバンズ丸パンと、貸してもらったパンまつりのシール応募でもらえるボウルの見本。

鮮魚部に一番近い場所に試食コーナーをセッティングして、ホットプレートや電子レンジを使って試食販売です。肉汁あふれる、あらびきハンバーグやフランクフルトを焼くわけです。

狭い店内にハンバーグのにおいが漂います。

「お客様。アツアツのハンバーグを食べていってください!」
「もう入口から、いい匂いがしたわよ」

「電子レンジで温めるだけでもジューシーです」
「え?焼かなくてもいいの?」

「はい。でも、焼くとさらにジューシーです。肉汁がしみ込んだパンはさらに美味しいですよ」
「これだけ肉汁が出ると、お皿を舐めるわけにもねぇ。オホホ」

「お客様。春のパンまつりでシールをお集めですか?」
「ええ。今年はどんな形だったかしら」

「はい。こちらが見本のボウルです」
「あら、思ったより深いわね。これならいろいろ使えそう。今夜はハンバーガーを追加するわ」

「ありがとうございます!次回はサンドイッチの試食を、ご用意しておきますね」

チルドハンバーグの消費期限は短くは無いので、多少であれば、翌日に在庫が押しても心配はしませんが、パン類はその日が勝負です。しかも、自部門の商品ではないので、何が何でも売り切らなければ、お局主任から角と牙が生えてきます。自らお尻に火をつけて、何が何でも売り切らなければならない環境に追い込むわけです。「魚の日」を自分の命日にしたくはない!

畜産主任が作業を放り出して、しかも「魚の日」に必死こいて、パンとハンバーグやフランクフルトを売るわけです。こんな滑稽な姿、親が見たらなんと思うのでしょう。




そんな「魚の日」もとっぷりと日が暮れ、ピークも過ぎて店内は閑散と。

いよいよ、結果発表です。

「夕方までは、かなり追い上げていたからなぁ」
「大丈夫!俺には木公たか子がついている」

数字を確認に事務所へ行くと、店長と鮮魚主任が談話しています。

「お!畜産主任、お疲れ!」
「いやぁ。健闘したじゃない。俺も喜んでいられないよ」

残念ながら、木公たか子サマは、微笑んではくれませんでした。

鮮魚の売り上げに、2万数千円ほど足りません。
この時間帯からの追い抜きは、自腹を切らない限り絶望的。 あからさまの抗戦で、さすがに店長も鮮魚主任も顔は引きつっていましたが、結果は数字がすべて。今回は完敗です。

安堵の笑みを浮かべる店長を恨めしそうに見ていると、お局主任が戻ってきました。

「あら、畜産主任。あのパンケース、全部売ってくれたって?嬉しいわぁ」
「はぁ。ボウルの見本。お返ししますね」

「いいのよぉ。今度はサンドイッチの試食ですって?それまでお貸しするわ」
「はあ。ただ、今回ほどは動かないと思いますが…」

「心配しなくていいのよぉ。パンまつりはまだまだ続くから。次もよろしくね」

クッソー!
今度こそは、一泡吹かせてやる!

もはや盲目ですね。

j-rakuda

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